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写楽の手(1)

写楽の大首絵の中の人物の「指」は、「まむしのような指」、「鉤指」と評され、一説に「能」の所作を表していると言われています。確かに何というか、「骨がなく、さながら風船人形をふくらましたような指」のようです。写楽がデッサンが下手だという根拠の一つになっています。だが果たしてそうなのでしょうか? いずれにせよその「指」は、大首絵と同様に、一度見たらちょっと忘れられない造形であって、強い印象を残します。それは何故でしょうか?

 不自然な形

 例えば上の絵(「ニ代目市川門之助の伊達与作」)の、人さし指の第一関節より上の部分は、長くて内側に反って曲がっていますね。これは写楽のいわば「描き癖」で、不自然といえば不自然なのですが、このことが、絵の「味」になっていて、指の仕草の表情をぐっと豊かにしています。また下の絵(谷村虎蔵の鷲塚八平次)の指は、場面の緊張感をあらわすように、ぐっと拳を握り込んで刀の柄を持っています。親指が人さし指の第一関節と第二関節の間に入っていて、小指が少し出ている感じです。

  実際にこういう形をやってみますと、かなり強く拳を握りしめる格好になり、同時に刀の柄の端を持つというのは、とても難しいことが分かります。反対から見るとこういう感じです。(写真) 物を握り込む余地が、ほとんどないことがおわかり頂けると思います。

 もう一つ例をあげてみましょう。「市川男女蔵の奴一平」では、男女蔵が、刀の鍔に親指と人さし指を掛けて、今にも刀を抜くぞと構えています。
 

    

皆さんも右手の親指と人指し指で、10cm位の空間を作っていただけるとお分かりになると思いますが、その場合、そうやって肘を上げると、両方の指の爪が自分の方を向きますね。ということは、反対方向から見た場合(則ちこの絵のように)、両方の爪が相手方から見えているということは、ありえない訳です。(一番右の写真のようになります)

 写楽の役者絵は「中見」といって、実際の舞台をスケッチしたといわれています。ですがこうしてみますと、すくなくとも「指」は「中見」ではなく、おそらく自分の指をじっと観察し、あれやこれと動かして、この絵にはこれが一番だろうと、アイデアを凝らして作画したものと、推察されるのです。

 続いて代表作の「大谷鬼次の奴江戸兵衛」について考察します。



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