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写楽の手(2)

奴江戸兵衛の手のトリック

 写楽の代表作「大谷鬼次の奴江戸兵衛は、鬼次の顔と対照的にむしろ小さめに描かれた「手」がふところから「ぬっ」と出ていて、見るものに強い印象を残します。

 ここでも写楽は彼一流のトリックを使っています。左図が実際のこの絵で描かれた「」です。よく見ると、手の平の部分が横に大きく引き延ばされています。正しく描くと右図の様でなくてはならないのです。しかしながら、こうやって手が引き延ばされて描かれることにより、この絵の強力なアクセントとなる効果を生み出しています。顔と手がいわば「呼応」している関係といえましょう。 

  

 余談ですが、ここで描かれている手相の三つの線は、「天紋」「地紋」「人紋」すなわち「感情線」「頭脳線」「生命線」を現わしています。ちょっと奇異に写りますが、当時の中国伝来の手相学の書物は、このような線の配置で説明されていました(実際にはこういう手相の人は極めて珍しいと思われる)。感情線云々という見方は、明治以降の西洋から伝わった手相学が元となっています。

今度は鬼次の「右手」を見てみましょう。

 特に「爪」によく注意して見ますと、親指・人指し指が左回りに、また薬指・小指が右回りに捻った位置に爪が描かれています。実際はこのように指をいっぱいに広げると爪は同じ方向を向くので、この絵はおかしいのですが、このように(指そのものも、長く「しなっている」ように描かれている)描くことにより、手が大きく感じられるのです。他にも「ニ代目沢村淀五郎の川つら法眼と板東善次の鬼佐渡坊」の板東善次の右親指の爪なども不自然な形で捻ってあります。

  

もう一つ紹介します。やはり代表作の「市川蝦蔵の竹村定之進」の左手親指を見て下さい。(右上図)
私がここで言いたいのは、写楽は対象の人物があたかも「ゴム」で出来ているかのように、いろいろと引き延ばしたり捻ったり加工したりしているということなのです。すなわち、一度形を把握した上で、敢えてそれを壊すという作業をしているといえるのです。


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