2.元絵?との比較


二期以降の写楽の素晴らしさ

  初期の大首絵の印象が強すぎるせいでしょうか、二期以降の全身を描いた写楽の作品は、 評価が 低いのですが、決してそんなことはありません。

 左は、「切狂言浄瑠璃・四方錦故郷旅路」の松本米三郎の仲居おつゆです。

  ためしに、米三郎の頭の部分を、親指で隠して、もう一度見てもらえますでしょうか?
 すると、「デッサン」としても、着物の「モード画」としても素晴らしい作品だというのがよく 分かります。
  細かい所を、無粋を承知で解説しますと、鉄瓶や三宝のわずかな傾き具合で、その重さが分か りますし、帯や前掛けを結ぶ紐の垂れ具合や、前掛けや裾の襞の表現など、素材の材質までうか がえるような表現には、舌を巻きます。また指一本一本まで細やかに描かれ、ちらっと見えてい る左足の指なども素晴らしいです。これらが、さながらリズムとハーモニーを奏でているよに、 たくみに配置されています。
  これは、
相当な画力とセンスがないと描けるものではありません

 そして他の全身図でもいえることですが、腕が着物のどのあたりを通っているのかが、たやすく想像出来て しまうのです。それほど素晴らしい描写力なのです。つまり、一期からもいえますが、写楽はとても立体的に
 対象を捉える能力が高いのです。
 では、ギリシャで発見された扇面画の方は、どうでしょうか?

 平面的な扇面画
 ここで、扇面画の方を子細に観察しますと、まず松本米三郎の右腕が、突如として無くなっているように見  えます。おそらく右の振袖の部分を、手を出さずにたくしこんで、左側にもっていったように描いているので しょうが、袖口が丸く大きく開いたままなので、とても不自然です。
 私には、最初留袖の着物を描いていて、急遽振袖に描きなおしたように見えてしかたありません。
 さらに幸四郎の加古川本蔵の、右手や袴や衣装の模様が、平面的で、写楽の特徴とは相異があります。
 そして当初から指摘されているように、この扇面画の図柄には、元となった写楽の作品が多々存在するの です。(下に続きます)

   
1.「切狂言浄瑠璃四方錦故郷旅路」より松本幸四郎の新口村孫右衛門と中山富三郎の梅川 2.「傾城三本傘」より山科四郎十郎の名古屋三左衛門  3.同じく沢村宗十郎の名古屋山三

        
4.同じく 瀬川菊之丞の傾城葛城 着物の立体的かつ正確な描写に注目   5.「大和屋杜若」岩井半四郎の浮世之助下女さん


説明しますと、扇面画の加古川本蔵の右側と刀の大小および下半身の袴の描写は、2の山科四郎十郎の肩衣からの下の右側から、
まるっと絵柄を拝借していますし、本蔵の向かって左の扇を持った手とその下の袖の様子も、3の沢村宗十郎の絵とそっくりです。
そして松本米三郎の小浪の衣装は帯の形や黒の繻子の着物・襦袢の柄、襟なども含め中山富三郎の梅川のまんまです。
(ちなみに分かりにくいですが、本蔵の衣装の図柄は、1の幸四郎の衣装の図柄と同じで、米三郎の帯の柄は4の菊之丞の衣装にある紋と同じ)
さらに扇面図の米三郎の頭の拵えは、櫛の大きさと形状、簪の角度、紫帽子の様子や笄(こうがい、)白の丈長の位置などから5の浮世絵が,
下敷きだとはっきり分かります。

どうして、オリジナルの肉筆扇面画なのに、これほどまで他の作品と同じ点があるのでしょうか?
その答は、この扇面画が写楽の画集を元に後から描いたからだとしか、私には思えないのです。


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